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スチームパンクトップ

縦万力を入手

主催者は古い万力を入手しました。万力とは加工物をしっかり固定する為の道具です。普通万力は
机の上に固定して使用しますが、主催者が入手したのは机の端に縦方向に取り付けるタイプの物。
縦万力、あるいは立万力と言われる物です。主催者が縦万力を初めて見たのは2009年ごろ。とある
工場の設備管理部門に設置されているのを見たのが最初。それ以前から縦万力の事を知ってはいま
したが、実際に見たのは初めてでした。ただそこにあった縦万力は荷物の山の一角にほったらかし
で使われていませんし、よく見ると壊れていました。使っていないのならクレ!と思わず言いそう
になりましたが、ある程度大きな組織の備品なのでまだ資産管理されているかも知れないし、しか
も壊れているしで言うのはヤメました。普通の万力は学校でも工場でも結構あると思いますが、縦
万力は中々目にする事の無い道具だと思います。これは縦万力が鍛冶屋とか鉄工所向けの道具なの
でそもそも出回りが少ないのと、国内では遥か昔に製造中止になっていて新規に売り出される事も
無いからだと思われます。20世紀初頭から続く鍛冶屋の写真やイラストを見ると、かなりの確率で
縦万力が設置されています。鍛冶屋だしまさにスチームパンクと言う感じだと思います。主催者は
以前からこのカッコイイ縦万力が欲しい、と思っていました。しかし置き場所がありませんから、
入手を本気で考えてはいませんでした。それが一転、入手する事になったのは最近工作室を整備し
たのですが、作業台も新規で作りました。それで「ここに設置できるやん」と思い立ったからなの
です。それでオークションをチェックしていたところ、出物があったので入札、入札者は主催者一
人だったのでそのまま落札、縦万力がやって来る事になりました。で、下の写真が届いた縦万力。
全長95cm、重さ35kg。重い、でかい、あと凄いサビ。まあサビはね、ユーチューブで外国人の好
事家が縦万力とか古い工具のレストア動画を発信していますが、みんなボロボロ、サビサビの物を
レストアしています。主催者も同じ様な事をする訳なので、まあこれくらいのサビは問題無いね。




縦万力はナゼ縦型でナゼ鍛冶屋向けなのか?と気になります。理由は挟んだ物をガンガン叩いて使
用できる構造、と言う事らしい。物を挟む口(アゴ)の固定側が床に達しており、物を挟んでガン
ガン叩いた時の衝撃を床で受ける事ができるのです。一般的な普通の万力では、つかんだ物をガン
ガン叩いてはいけないのです。ガンガン叩くと上下方向に衝撃が加わる訳ですが、その方向にはあ
まり強くないので最悪破損してしまいます。まあそう言っても結構叩く事は多いのですが。鍛冶屋
では鉄を伸ばすのも、曲げるのも、切断するのも、溶接するのも全て真っ赤に熱して叩いて行いま
すので、叩く事前提の道具になるのです。

入手した縦万力をよく見ると銘が入っていました。日の丸と旭日旗、扇子らしき刻印とTOKYOの
文字が。OH!これは国産品の様だ。ただ具体的なメーカー(製造者)名は良く分からず。




早速分解してサビを落とします。左側面と右側面でサビの進行具合が違います。サビの多いほうが
下になってずっと置かれていた様だ。下の写真がサビが多い面。




この手の鉄のカタマリはサビだらけになっても、そう簡単に朽ちて無くなる事は無いのであまり気
にする事はありません。しかし唯一の懸念材料はアゴを締めるネジ。これが摩耗とかサビで空回り
状態だときつい。恐る恐るネジを緩めると・・・。根本はサビが来ているが、奥の方はかなり良い
状態。これはラッキー!と喜んでネジを外しに掛かりますが、途中で固着してしまい、そこから外
れません(下の写真中)。どうしようかと思いましたが、このままではらちが明かないので思い切
って回してみます。と言いましても、手では回せないので床に置いて足で蹴り飛ばして何とか回す
のです。すると少しずつですが回す事が出来、何とか外す事が出来ました。外した後、ネジを見て
も特に異常はありません。う~むただ単に雌ネジ側が固いだけなのか。なお、下の写真でネジ以外
の部分で黒光りしている箇所があります。これは試しにサンダーにカップブラシを付け、磨いてみ
た部分です。




さて、ハンドルの部分が外れたので次は雌ネジの部分を外します。しかし・・・。これがまた外れ
ない。雌ネジの基部に油をさして放置後ハンマーで叩きますが、まるでビクともしません。2~3日
トライしましたが、まるで外れそうにないので前作った油圧プレスにかけてみます。雌ネジは裏側
に飛び出ているので、その部分をかわしてセット、対面は厚めの鉄板をシャコ万力でプレスに固定
してその鉄板で押します。それでソロソロと圧をかけていきますが・・・。まるで変化無し。万力
かプレスのどちらかが壊れるんじゃないかと、だんだん怖くなってきた。最終的にはバゴン!と言
う音と共にシャコ万力が外れてしまいました。




アカン。油圧プレスで外れないのなら、もう何をやってもムリです。この部分を外すのは諦めて他の
部分を外します。と言いましても後は可動アゴ下部の止めネジだけですが。ここでネジを外す前に他
の部分を見てみます。まず固定アゴの下の部分にはリーフスプリングが付いています。これは本来可
動アゴを押すパーツです。本来の位置にセットしてみましたが全然届いていません(下の写真左)。
これは曲げなおす必要があります。下の写真中は向って左側だけ磨いてみたところ。下の写真右は可
動アゴの止めネジを外したところ。このネジも大変固かったが、何とか外す事が出来ました。




全てのパーツを分解しました。それで分かった事ですが、固定アゴとハンドルのネジが入る雌ネジは
この万力では一体物っぽい(下の写真中)。これでは外れない訳だ。一体物の方がカラ回り防止の回
転止めが不要で安定しますから、使い勝手は良くなります。分解できたのでサンダーでバリバリ磨き
ます。完了したのが下の写真右。




可動アゴの取付ネジを磨くとなんと真鍮製だった。良く分からんが金掛かっているなあ。それとこの
万力は元々ライトグレーに塗装されていた様だ。サビを落としたら、ネジの下とか可動部の内側に塗
装が残っていました。赤色の下地塗装の上にライトグレーの上塗り塗装されているのが分かります。




サビを落としたので再度組み立てに掛かります。ここでリーフスプリングを本来の動作をする様に加
工します。やり方はガスバーナーで真っ赤に熱して、柔らかいうちにハンマーで叩いて曲げ角度を大
きくするのです。それで組み立てたのが下の写真左。リーフスプリングが十分可動アゴを押す様にな
りました。組み立てが完了したのでハンドルを回してアゴの開閉確認をしたところまた問題が。ハン
ドルを目いっぱい回してもアゴが完全に閉じないのです(下の写真右)。




ナゼ閉じないのか今となっては良く分かりません。対応策としてはハンドル基部のワッシャをもっと
厚みのある物に変えるのが手っ取り早い。それで作ったのが下の写真。どうせ作るのなら可動アゴに
接触する部分に段差を付け、可動アゴの通し穴にフィットする様にしました。これで固定アゴと可動
アゴの左右のずれが解消されます。




縦万力のレストアは完了しました。アゴもぴったり閉じています。しかしまだ作業は続きます。レス
トアが完了した縦万力を作業台に取り付けなければなりません。




取り付はどうしたもんかと暫く考えていました。外国人は専用のテーブルを作って、そこに取り付け
ている様です。主催者もそれもありかも?と最初は思っていました。しかし・・・。こんなでかい万
力を付けるテーブルとなるとそれなりに大きくなりますし、重さも相当な物になります。動かすのは
重くて大変ですし、むしろ動かない方が万力としては好都合です。なので初心に帰り?作業台に取り
付ける事にしました。まずは作業台の所定の場所に、取り付けの為のLアングルと平板をボルトで合
体させた物を溶接します。金具の厚さは5㎜、ボルトはM12を使用。




次に縦万力を取り付ける為の角パイプを切り出します。本来ならば縦万力は作業台の天板に取り付ける
のですが、この作業台の高さが95㎝ぐらいあり、そのままでは高すぎるので天板から下げて取り付ける
のです。下の写真が切り出した角パイプと、外枠のみ溶接して作業台にセットしたところ。




さて次は万力の足をセットする台座を用意します。上で書いた様に打撃の衝撃を受ける部分なので、こ
の部分が軟弱では意味がありません。台座は厚さ25㎜の鉄板に27㎜の穴を開けた物を2枚重ねにして使
用。写真にはありませんが床と接する部分には硬めのゴムシートを張り付け、床(コンクリート面)の
割れを防ぐ様にします。




さあ早速縦万力をセットしてみます。すると・・ムッ!セット出来ないぞ。ハンドルの雌ネジの部分が
取り付け枠上部にぶつかります。ああ・・・。この部分の角パイプは最初の予定では無かったのです。
それがいざ材料を切り出す段階になって「やっぱ上にも角パイプがあった方が丈夫だろ」と思い立ち、
急遽付けたのですが、それが当たるのです。




しょうがないのでこの部分をカットします。厚さ2.3㎜の鉄板を丸めた物を用意して、Rに合わせて角
パイプをカット、溶接します。




それでセットすると、うむ!今度はいいぞ。上手く取り付けができたので、ここで取り付け枠を作業台
の取り付け鉄板に溶接、位置決めを行っておきます。




ここまで来たら縦万力の固定金具を取り付けるブラケットの位置決めをします。下の写真でシャコ万力
で仮止めしているパーツです。それと縦万力の足を受ける台座の固定を考えなくてはなりませんが、こ
れは取付枠にコの字型の金具を作って台座を引っ掛ける様にしました。




縦万力の固定は取り付け枠のブラケットに厚さ9㎜の鉄板を乗せた物で受けます(下の写真中)。固定
位置が決まったら厚さ9㎜の鉄板に取り付け用のボルト穴を開け、取り付け枠にブラケットを溶接、更
に厚さ9㎜の鉄板も溶接して全ての溶接作業が完了です。




後は取付枠を塗装、縦万力の固定金具と厚さ9㎜の鉄板の間に硬めのゴムシート(足をセットする台座
と同じやつ)を挟んでボルトで固定して全ての作業が完了します。




縦万力の取り付けが完了しました。ある程度の大きさがある作業台に取り付けたせいか、結構安定して
います。万力作業は、とにかくしっかり保持したい場合が多いので締め付けハンドルをハンマーで叩く
事もしばしばです。その時安定が悪いと万力ごと動いてしまいますし、小型の万力では壊れるかも知れ
ませんが、これならハードな扱いにも十分対応出来そうです。






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